日本でのプラスチック・リサイクルの展望
(廃プラスチックの処理技術動向と今後の課題)
社団法人プラスチック処理促進協会
総合企画室山脇隆


はじめに
社団法人プラスチック処理促進協会の山脇と申します。本日は日本における廃プラスチックの処理技術動向と今後の課題についてご紹介致します。発表順序はここに示した順で行います。先ず、プラスチック処理促進協会の紹介を行います。30年前に設立され、廃プラスチックの処理技術開発・調査・広報活動を実施している団体で、汎用プラスチックの製造会社の会費で運営されている法人です。日本では昨年循環型社会形成推進基本法を柱とした、循環型社会を目指す法体系が構築されました。この基本的な考え方は従来の大量生産・大量消費・大量廃棄から決別し発生の抑制(リデュース)・再使用(リユース)・再生使用(リサイクル)を三本柱として循環型社会を形成しようとするものです。

日本のプラスチック・リサイクル
さてプラスチックに話しを移します。日本におけるプラスチックの生産から廃棄までのフローを示したのがこの図です。1999年の国内における樹脂生産量は1457万トン、国内消費量は1081万トン、廃プラ総排出量は976万トンとなっています。家庭等から排出される一般廃棄物は486万トン、産業廃棄物は490万トンとほぼ半々です。処理・処分の方法は材料リサイクル等のリサイクルが15%、発電や熱回収等のサーマルリサイクルが31%で有効利用されている割合は46%です。未活用の単純焼却と埋立が56%と半数を超えています。

循環型社会に向けた法律の中で最も早く施行された容器包装リサイクル法について、簡単に紹介します。一般廃棄物の67%を容器包装が占めており、この法律の制定が急がれました。この法律はガラスびん・PETボトルが平成9年から施行され、昨年よりPETボトルを除くその他プラスチック容器包装・紙製容器包装が加わり全面施行となりました。この法律では容器包装を利用する事業者と容器包装を製造する事業者がリサイクルを義務付けられリサイクルを自ら行うか又は委託しなければなりません。委託を受ける事業者を再商品化事業者と言い実質的にリサイクルを行っています。その他プラスチック容器包装の収集計画が図の様に策定されています。昨年の再商品化事業者の手法別処理能力と初年度の落札量を示したのがこの図です。高炉還元法が最も多くなっています。これら処理設備は地図にある様に全国に分散して存在しています。プラスチックのリサイクル手法はマテリアル・ケミカル・サーマルの3種類に大別されます。ケミカルリサイクルには高炉還元剤・コークス炉化学原料・ガス化・油化等が該当し、ゴミ発電・セメントキルン等がサーマルリサイクルに該当します。容器包装リサイクル法では燃料として利用するものを除いてケミカルリサイクルに該当するものを広義のマテリアルリサイクルと定義しています。

ケミカル・リサイクルの紹介
これから再商品化技術の概要を紹介します。最初は当協会が技術開発に参画した油化技術の説明です。この設備は年間6000トンの処理能力で稼働中です。2番目は同じく技術開発に参画した二段ガス化を紹介します。特徴は高温でダイオキシン類を分解し急冷により再合成を防いでいる点です。ガスは化学原料として利用される為、炭酸ガスの発生を抑制します。灰分はスラグとしてセメント原料に利用されます。3番目は高炉還元剤です。鉄鉱石を高炉の中で還元し金属鉄を生産しますが、プラスチックを還元剤として利用するものです。最後にコークス炉原料化です。高炉の還元剤としてコークスを使用しますが、これは石炭を蒸焼きにして製造されます。石炭の代わりにプラスチックを用い炭化水素油・ガス・コークスを得て、それぞれ化学原料・燃料として利用します。

産業廃棄物の中で、現在法制化の検討が進行中の使用済み自動車に着目してみます。この図は使用済み自動車の再資源化スキームです。この中でシュレッダーダストの処理が大きな課題になっています。この中には約27万トンのプラスチックが含まれ、この処理方法が種々検討されています。日本自動車工業会は昨年EUPの二段ガス化プラントで実証試験を行い、妥当性の検討と課題抽出を行っています。ここでユニークな使用済み自動車シュレダーダストの処理技術を紹介します。製鉄所で副生するタールを媒体とし、金属分とプラスチック分を分離し其々を再資源化するもので現在パイロット段階での検討が行われています。

電子機器のプラスチック・リサイクルの方向性
次に使用済み電子・電気機器の状況に言及します。ここでもシュレッダーダスト中のプラスチック処理が課題になると予想され、対象4品目中のプラスチック量は約20万トンと推定されます。今年4月から施行された家電リサイクル法は当面再商品化率が50%から60%であり、金属とガラスを再商品化すれば対応可能ですが,2008年までに80%から90%に引上げられる見込みであり、その時点でプラスチックの再商品化が最大の課題となります。

以上、日本のプラスチックリサイクル技術は容器包装リサイクル法に対応して種々開発されてきましたが、現時点での課題を次に纏めてみます。一つ目はハロゲン含有プラスチックの安全な処理技術の開発で、塩化ビニール樹脂と臭素系難燃剤含有プラスチックの処理技術開発が主たる対象となると認識しております。二つ目は経済性を考慮したリサイクル体系の構築で、Eco‐efficiencyの考え方の社会への啓蒙とこれを支えるLCA評価技術の開発と活用が重要と考えております。

塩化ビニール樹脂はプラスチック全体の生産量の中で17%程度を占めます。この樹脂のリサイクルはマテリアルリサイクルを中心に進められており、農業用フィルムやパイプ・継手等で実績がありますが、最近ケミカルリサイクルの技術開発が盛んに行われています。

一つ目は当協会も参画している高炉原料化技術です。ロータリーキルンの中で脱塩酸し、分離された塩酸中に含まれる有機物を完全に燃焼し工業用塩酸として回収されます。脱塩酸された炭化物は高炉の還元剤として利用されます。現在実証試験を継続中です。

二つ目はセメント原燃料化技術です。これもロータリーキルンで脱塩酸し、塩酸は塩化ビニール樹脂を合成する為の塩ビモノマー原料として使用可能な技術を開発すると共に、炭化物はセメントの燃料として活用するものです。回収塩化水素の精製技術を開発し技術確立を終えております。塩ビのケミカルリサイクル技術は大きな進歩を遂げています。

臭素系難燃剤を含有するプラスチックのリサイクル
臭素含有プラスチックのケミカルリサイクル技術は国内では全く検討されていないのが実状です。先ほども触れましたが、家電リサイクル法の再商品化率が80〜90%に引上げられた場合対象4品目中の30%を占めるプラスチックの再商品化が最大の課題となり、この中に臭素含有プラスチックが含まれています。臭素含有プラスチックは家電4品目のテレビとパソコン、複写機等に使用されており、これらの対象樹脂量は約24万トン存在します。この中でマテリアルリサイクルに適さない部分を環境負荷を少なくリサイクルする手法を開発しておく事が必要になると考えます。

大きな2番目の課題は経済性を考慮したリサイクル体系の構築です。ここでは欧州プラスチック製造者協会(APME)が検討した欧州の容器包装プラスチックに関するEco‐efficiencyの結果について紹介します。この手法は経済性と環境負荷の両面から望ましい方向を検討するものです。この図は現在欧州の容器包装で埋立に廻されている部分70%をサーマルリサイクル又はマテリアル・ケミカルリサイクルに全量置換えた時のケーススタディーを行った結果です。マテリアルとケミカルリサイクルの割合を現状より増やして行くと環境負荷が殆ど変化しない割に経済性が急激に悪化する事が読み取れます。リサイクルの中でエネルギー回収が経済的に有利である事を暗示しています。この関係の理解を容易にする為、プラスチック部品の形態による分解のし易さを比較してみます。大きな単一の部品は簡単に分解出来ると共に再生が容易な為マテリアルリサイクルに適しますが、小型部品や積層品等は分解に大変なエネルギーを必要とします。この様な部品はケミカル・サーマルリサイクルに向けるのが適しています。日本では容器包装リサイクル法ではマテリアル・ケミカル・指定された特定のサーマルが再商品化の対象として認められています。家電リサイクル法・資源有効利用促進法のパソコンについてはマテリアルリサイクルまでしか認められていません。競争力ある社会を形成する為にも経済性を考え、ケミカル・サーマルリサイクルまで含めた法体系に軌道修正する必要があると考えます。

さて、臭素含有のプラスチックをリサイクルする上で環境負荷を小さく抑える可能性の高い実用化技術を次に列挙してみます。サーマルリサイクルとしては、最近自治体での採用が増えたガス化溶融炉が、ケミカルリサイクルとしてはEUPの二段ガス化プロセス・川崎製鉄のサーモセレクトが挙げられます。ここではサーモセレクトのダイオキシン分解能力を食品と比較して示しました。適切な処理プロセスを通すと環境負荷は大幅に削減出来る事がわかります。





現在実施中のリサイクル実験について
最後に当協会が臭素含有プラスチックの処理に関する基礎実験を始めた事とこの基礎実験を実証試験に発展させる為、関係者の情報交換の場をスタートさせた事を紹介致します。

先ほど環境負荷を小さく抑える可能性のある実用化技術をいくつか紹介致しましたが、この中の川崎製鉄Xサーモセレクトをモデルとした小型の設備を用い典型的なモデルサンプルを使っての基礎実験と稼働したばかりの家電リサイクル工場から排出されるプラスチック処理状況の調査を今年度の日本自転車振興会の補助事業として実施中です。



この設備は低温(700℃前後)でのガス化炉と高温(1150℃前後)での高温保持炉からなり、試料は低温ガス化炉の上から投入しガス化されたガスを分析する計画で実験中です。この基礎実験と家電リサイクル工場から出るプラスチックの実態を踏まえ実用化レベルでの実証実験へ展開していく必要があります。この為、経済的で環境安全性に配慮したリサイクルをどの様に行っていくべきかを難燃性プラスチックに関係する業界・企業と議論し、ベクトルを合わせる為の情報交換会を発足させました。この会を通じて環境負荷が小さくなる事を証明する実証実験が行われ、将来の法律改正が望ましい姿になる様、関係者が連携して広報活動を続けて行ける様にしたいものです。このセミナーに参加された皆様方にも是非このような活動に理解を賜り、これを機会に協力関係が拡大できればと期待しております。

以上


Copyright (C) FRCJ Allrights Reserved.
このサイトは上下のフレームにて構成されています。トップページはこちらからアクセスしてください。