平成15年12月18日
米科学アカデミー紀要論文及び関連する報道記事に関する見解書
日本難燃剤協会リン部会

2003年10月30日付けの朝日新聞に「有機リン毒性作用解明」と題する報道記事が掲載されました。報道記事は米科学アカデミー紀要6月号の論文 (PNAS;June 24,2003, VOL.100) を引用し、その中で一部の有機リン系化合物の神経毒性や環境汚染を引き起こす可能性が記載されています。これらの論文や記事の中で、あたかもプラスチックの難燃剤や可塑剤、潤滑油添加剤等の工業油として使用されているリン酸エステル類にもその様な疑いがあるとの誤解を与える恐れのある記載があると認識し、当協会は論文や記事に関して正確な認識を持っていただくことを目的として、ここに見解書を作成致しました。

(1)論文の内容について
報道記事が引用している米科学アカデミー紀要6月号論文 (PNAS;June 24, 2003, VOL.100) には、脳内伝達に必要な特定酵素を阻害し、遅発性神経毒性を引き起こす物質として以下の化合物が掲載されております。
これら化合物の中で、o-tolyloxyBDPOは、トリ o-クレジルホスフェートからの生成の可能性があります。トリ o-クレジルホスフェートは、現在、塩化ビニル用可塑剤や潤滑油の極圧添加剤等で使用されておりますTCP(トリクレジルホスフェート)の異性体であります。
 トリo-クレジルホスフェートの神経毒性作用に関しましては、既に1970年代に機構解明と対策がなされております。神経毒性機構は、トリo-クレジルホスフェートが生体内代謝作用によってo-tolyloxyBDPOを生成しこの化合物が酸素阻害作用及び神経毒性作用を持つ事が立証されております。対策に関しましては、原料であるクレゾールはシメン法により合成されるか、天然物の場合、o-クレゾールを蒸留して取り除くという方法により、既に高純度にm-クレゾール、p-クレゾールのみを得る技術が確立されております。従いまして、現在使用されておりますトリクレジルホスフェートは、トリo-クレジルホスフェートを全く含んでおらず、理論的にも全く安全である事が既に証明されております(1976年7月 可塑剤工業会 環境委員会 可塑剤TCPの安全性についてより引用)。この論文に記載されているその他の有機リン系化合物は、難燃剤、可塑剤、工業油には使用されていない化合物です。
従いまして、この論文は遅発性神経障害を示す特定の有機リン系化合物に関するものであり、当協会が現在供給するリン酸エステル類とは直接的な関係はないものと認識しております。

(2)朝日新聞との情報交換について
当協会では、今回の報道記事の取材記者とも情報交換を行っております。今回の記事の内容につきましては、遅発性神経障害を示す特定の有機リン系化合物に関するもので、難燃剤や可塑剤等に使用されているリン酸エステル類に関するものではないという朝日新聞社側の認識も確認しております。
一方、リン酸エステル系難燃剤が、ハロゲン系難燃剤代替の選択肢の一つとして認識される中、朝日新聞では、リン酸エステル系難燃剤は「環境面で安全な化合物であるのか」、「安全性データはどの程度取れているのか」、「環境対策が正しい方向に行っているのか」という観点で取材をされているそうです。この観点は、当協会の考えとも一致するものであり、今後も積極的に情報交換を行い、協力体制を築いていく事としております。

(3)結論
今回の論文及び関連した報道記事は、特定の有機リン系化合物に関するものであり、当協会が現在供給するリン酸エステル類とは直接的な関係はないものと認識しております。
現在、ヨーロッパのリスクアセスメントやREACHシステムの導入検討、日本でも化審法の改正が行われる等、化学物質の規制と管理に対する重要性が高まってきております。日本難燃剤協会は、レスポンシブルケアの精神にのっとり、関係省庁、各種業界団体、マスコミ等とも連携をとりながら、リン酸エステル類に関する各種安全・技術情報を、今後とも積極的に公開していく所存です。また、安全性データーの収集にあたりましては、日本国内のみならずヨーロッパ、アメリカの関連団体との相互の情報交換を行いながら積極的に対応していきたいと考えております。

以上



Copyright (C) FRCJ Allrights Reserved.
このサイトは上下のフレームにて構成されています。トップページはこちらからアクセスしてください。