■ABS樹脂のリサイクルの現状と今後の展開
 非ハロゲン難燃PC/ABSと臭素系難燃ABSのリサイクル基礎特性の比較検証
テクノポリマー株式会社
技術生産統括部リサイクル推進グループ
今井高照
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緒言
環境負荷が少なく安心して使用できる樹脂素材を開発することは樹脂メーカーにとり重要な課題である。地球環境の保護という観点から、難燃剤の危険性を指摘する動き、廃棄される機器から回収される使用樹脂部品のマテリアルリサイクルの要求も活発化しており、環境にやさしく、経済性の優れた難燃樹脂の開発が急務となっていると言える。

本実験では現在の市販難燃樹脂の基本的なリサイクル性を調査、比較することを目的に、市販されている非ハロゲン系難燃PC/ABS(HIPS)、臭素系難燃ABSを対象にi)繰り返し熱履歴、ii)耐加水分解性、の2つの切り口からマテリアルリサイクルへの適合性を比較検証した。
実験
 A.使用材料
本検討で使用した材料は全て日本国内で市販され、かつ事務機器等の筐体用成型材料として実績のある材料を用いた。「Table1」にその概要を示す。
Table1
Material code
Manufacture
Composition
Flame retardant
1
Nondisclosure PC/ABS Organic Phosphate ester
2
Nondisclosure PC/ABS Organic Phosphate ester
3
Nondisclosure PC/ABS Organic Phosphate ester
4
Nondisclosure PC/ABS Organic Phosphate ester
5
Nondisclosure PC/HIPS Organic Phosphate ester
6
Nondisclosure PC/HIPS Organic Phosphate ester
7
Nondisclosure PC/HIPS Organic Phosphate ester
8
Nondisclosure PC/ABS Organic Phosphate ester
ABS Nondisclosure ABS Brominated epoxy

 B.実験
樹脂製品はその使用時に様々な環境因子にさらされ、結果として特性の変化(多くの場合品質の劣化)が生じる。樹脂の劣化に関与する因子としてはi)熱履歴、ii)水分(耐加水分解性)、iii)紫外線、の3つが主たるものと考えられる。本実験ではこれら3つの因子のうち、各材料のマテリアルリサイクルへの適合性を比較するためにi)繰り返し熱履歴、ii)耐加水分解性、の2つに注目した実験を行い、機械特性、難燃特性を評価した。また、実験材料には一切、追加の添加剤等は加えず、全ての実験は購入したままのオリジナルの材料で実施した。
J) 繰り返し熱履歴
熱履歴への耐性は樹脂素材のマテリアルリサイクルへの適合性を見る上で重要な要素の一つである。本実験では押出機で連続して4回押出し、熱履歴を加えた。評価用サンプルは各押出毎に一部適当量を抜き出した。
K) 耐加水分解性加速試験
もう一つの重要な要素は加水分解への耐性である。本実験では加水分解挙動を加速して観察するため、オリジナル材料から成形した成形材料を湿度95%RH、温度80℃の環境で168時間保持した。試験後の成型品をクラッシャーで粉砕、以下に示す比率でオリジナル材料と配合、押出機でペレット化し、リサイクル品モデルしての試験用サンプルを作成した。
a) 30% リサイクル:オリジナル材料/加速試験後粉砕品=70/30(wt%)
b) 100% リサイクル:オリジナル材料/加速試験後粉砕品=0/100(wt%)
1-押出条件
全ての押出作業は30mm二軸押出機を用い、PC/ABS(HIPS)系は250℃、ABSは210℃で押出、ペレット化した。スクリュー回転数はいずれも150回転とした。
2- 射出成形条件
アイゾット衝撃試験およびUL燃焼性テスト用の試験片は80tクラスの射出成形機で成形した。計装化落錘衝撃試験の試験片は30tクラスの射出成型機にて成形した。
成形温度はPC/ABS(HIPS)系で250℃、ABSで210℃とし、金型温度はいずれも50℃とした。
3- 測定
J) アイゾット衝撃強度は1/8インチ厚のノッチ付き試験片を使用し、ASTM D256 に準拠して測定を実施した。
K) メルトフローレートはJIS K7210に準拠して測定した。測定温度はPC/ABS(HIPS)系は240 ℃、ABSは220 ℃とし、荷重はいずれも10kg とした。
L) 計装化落錘衝撃試験は我々が独自に開発した方法で測定し、破壊時のエネルギー吸収を加速度計のデータから計算した。試験片は1/10 インチ厚のプレートを用い、落錘棒のスピードを2.4m/sec にコントロールした。なお、落錘棒は直径7.94mmのものを用いた。
M) 難燃性はUL-94 5VB 燃焼試験に準拠し実施した。
結果と考察
1-熱履歴への耐性 機械特性
Figure 1 から3 に機械特性(アイゾット衝撃強度、メルトフローレート、落錘衝撃強度)の変化を示した。全てのデータは試験後の測定値をオリジナル材料での測定値で除した相対値で表示した。
% Recovery=(each measured data / the original data)x100


Figure 1 to 3で容易に判るように臭素系エポキシオリゴマーを難燃剤として使用した難燃ABSの機械特性は繰り返し押出後もほとんど変化せず、オリジナルと同等のレベルを維持している。

対して非ハロゲン難燃PC/ABS(HIPS)の場合には各製品毎に熱履歴への耐性は大きく変化している。また全般に難燃ABSと比較すると劣り、難燃ABSと同等の熱履歴への耐性を示す材料は本実験で使用した材料中には見いだせなかった。
2-加水分解の効果 機械特性
Figure 4 から6 に機械特性(アイゾット衝撃強度、メルトフローレート、落錘衝撃強度)の変化を示した。全てのデータは試験後の測定値をオリジナル材料での測定値で除した相対値で表示した。
% Recovery=(each measured data / the original data)x100


加水分解に対する耐性でも難燃ABSはオリジナルと同等の性能を保持していることが判る。
とりわけ、加水分解促進試験後の成型品粉砕品を100%リペレットしたもの(100% Recyclate)でもオリジナルと同等の性能を示すことは注目に値する。
対して、非ハロゲン系難燃PC/ABS(HIPS)の場合には前項の熱履歴への耐性と同様、製品毎に加水分解への耐性は大きく異なり、また今回試験した材料中には難燃ABSと同等の性能を示すものは見出せなかった。
非ハロゲン系難燃PC/ABS(HIPS)系の加水分解への耐性は製品毎に大きく異なるが、傾向としては、メルトフローレートの増加が大きいものほど、より機械的強度の低下が大きい傾向が認められ、より詳細な実験が必要ではあるが、加水分解により構成樹脂成分が著しく分解している可能性が示唆される。
これら非ハロゲン系難燃PC/ABS(HIPS)系市販材料の中ではサンプル番号7,8の材料は難燃ABSに近い安定性を示していると言えよう。
3-燃焼性
Table 2 にUL-94 5VB 燃焼試験に準じて行った燃焼試験の結果を示す。
熱履歴試験、加水分解試験の両方において、臭素系難燃ABSのみがオリジナルと同じUL-5VBを維持している。
非ハロゲン系難燃PC/ABS(HIPS)系市販材料ではサンプル番号5の材料は比較的良好に難燃レベルを維持しており、熱履歴試験では3パス目までオリジナルのUL-5VBを示す。他の非ハロゲン系難燃PC/ABS(HIPS)系市販材料の燃焼性保持性は劣っており連続押出1回目で、早くもUL-5VBに不合格となる。
更に、燃焼性の維持性を加水分解試験後の材料で比較した場合、難燃ABSと非ハロゲン系難燃PC/ABS(HIPS)系材料の差異は著しいものとなる。
加水分解試験後の材料から作成したリサイクルモデル材料の燃焼性では非ハロゲン系難燃PC/ABS(HIPS)系市販材料は全てがUL-5VB不合格となるのに対し、臭素化エポキシオリゴマー系難燃ABSでは加水分解促進試験後の成型品粉砕品を100%リペレットしたリサイクルモデル材料(100% Recyclate)でもオリジナルと全く同様の燃焼性を示した。
 
non-halogen PC/ABS
FR-ABS
1
2
3
4
5
6
7
8
1)Thermal History Original passed passed passed passed passed passed passed passed passed
After the 1st
extrusion
failed
D(5)
failed
D(4)
failed
D(5)
failed
D(5)
passed failed
D(4)
failed
D(5)
failed
D(5)
passed
After the 2nd
extrusion
failed
D(5)
failed
D(4)
failed
D(5)
failed
D(5)
passed failed
D(4)
failed
D(4)
failed
D(5)
passed
After the 3rd
extrusion
failed
D(5)
failed
D(4)
failed
D(5)
failed
D(5)
passed failed
D(4)
failed
D(4)
failed
D(4)
passed
After the 4th
extrusion
failed
D(5)
failed
D(4)
failed
D(5)
failed
D(5)
failed
D(5)
failed
D(4)
failed
D(4)
failed
D(4)
passed
(2)Hydrolysis Original passed passed passed passed passed passed passed passed passed passed
30% recyclate failed
D(5)
failed
D(5)
failed
D(5)
failed
D(5)
failed
D(5)
failed
D(5)
failed
D(5)
failed
D(5)
passed
100% recyclate failed
D(4)
failed
D(5)
failed
D(5)
failed
D(4)
failed
D(3)
failed
D(4)
failed
D(4)
failed
D(4)
passed
Note: D(x) はそのサンプルがUL-5VB 燃焼試験においてx回目の接炎でドリップしたことを示す。
結論
本実験より、現在市販されている、電気・電子機器の筐体に適した樹脂材料の中では、臭素化エポキシオリゴマーで難燃化された難燃ABSのみが、熱履歴および加水分解試験後もオリジナルの特性を高く保持していることがわかった。
樹脂のマテリアルリサイクルを行う側の観点からは、市場から回収された樹脂製品が安定した品質を示すことは望ましいことと言える。
回収樹脂の品質が安定であれば、例えば、予め定めたプログラムに沿ってより経済的なリサイクルを行うことも可能であろう。
非ハロゲン難燃PC/ABS(HIPS)系市販材料では、試験後の特性は条件毎、製品毎に大きく異なり、臭素化エポキシ系難燃ABSと比較すれば、樹脂リサイクルの観点からは幾分困難さがあるものと考えられる。
最後に、今回の実験では3つの劣化因子のうち、熱履歴と加水分解に注目し、基本的なリサイクル特性を評価したが、より実用的には紫外線の寄与を考慮した手法の確立が望まれる。


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