主要難燃剤解説
芳香族リン酸エステル

特徴・要約
芳香族リン酸エステルは、オキシ塩化リン及びフェノール類又はフェノール類とアルコール類の混合物との反応により生成する化合物群です。他の化学物質と同様、物質毎にそれぞれ特徴が異なるため、芳香族リン酸エステル類を一括りに同一の特性として考慮するべきではありません。物理特性、化学特性、安全性等は、各々の物質毎に個別に考慮するべきです。市販製品は、以下の通りです。

トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート(EHDP)

ブチル化フェニルホスフェート:
例えばt-ブチルフェニルジフェニルホスフェート(t-BDP)、ビス-(t-ブチルフェニル)フェニルホスフェート(BBDP)、トリス-(t-ブチルフェニル)ホスフェート(TBDP)

プロピル化フェニルホスフェート:
例えば イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート(IPP)、ビス-(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート(BIPP)、トリス-(イソプロピルフェニル)ホスフェート(TIPP)

応用
芳香族リン酸エステルは、PVCの難燃剤として広く使用されています。この用途においては、芳香族リン酸エステルは可塑剤としても機能し、フタル酸エステルのような汎用可塑剤と一部もしくは全量置き換えて使用されます。主な使用例としては、合成皮革、テント、防水シート、電線ケーブルやコンベアーベルト等が挙げられます。また、セルロース樹脂(セルロースアセテート)、エンジニアリングプラスチックスや合成ゴムといった樹脂にも使用されています。

安全性情報
◆健康
芳香族リン酸エステルは、概して急性毒性を有しません(別表参照)。また皮膚や眼に対しての刺激性は、皆無か、あっても軽度です。
芳香族リン酸エステルの神経毒性の可能性に関する情報が、過去数十年にわたって広範に蓄積されています。これらの情報から、米国EPAは1992年に、神経毒性の危険性はないと結論付けました。非常に高い投与量(>2000mg/kg体重)において神経毒性作用を示す研究結果もあります。しかしながら、このように高い投与量レベルでの作用は、潜在的な危険性とはみなされませんでした(Docket No. OPPTS-42038A, FRL3883-4, US-EPA, 1992)。
上記の米国EPAによる検討時に、芳香族リン酸エステルの生殖毒性と発達毒性に関しても論議されています。いかなる芳香族リン酸エステルについても、それらの曝露による生殖毒性と発達毒性を証明する情報はありませんでした。母体に対して高い量を投与した場合に限り、続発性の発達への影響が潜在することがわかっています。
米国EPAは芳香族リン酸エステルの亜慢性毒性(28日、90日試験)を検討し、250mg/kg/日(28日試験)から20-50mg/kg/日(90日試験)という投与量レベルで、亜慢性の器官毒性(肝臓)作用を示すことが判明しました。この投与量レベル以上において見られる諸作用としては、肝臓重量の変化、肝臓肥大や変色が観察されました。EUの危険な物質の分類等に関する理事会指令(67/548/EEC)においては、これらの知見に基づくラベリングは必要とされません。

◆環境
米国EPAは、上記の検討(Docket No. OPPTS-42038A, FRL3883-4, US-EPA, 1992)時に、芳香族リン酸エステルの環境毒性と環境運命についても審査しています。芳香族リン酸エステルは、水生環境に対して有毒性を示しますが、生分解性が比較的高く、水生環境に長期間存在しないことが、環境監視データにより証明されています。従って、芳香族リン酸エステルは、環境中において想定される濃度では環境に影響を与える潜在性はない、と結論付けられています。

◆分類とラベリング
大部分の芳香族リン酸エステルは、EUの危険な物質の分類等に関する理事会指令(67/548/EEC)において分類該当いたしません。最新の安全性分類に関する情報は、個々の製品のMSDSを参照してください。
芳香族リン酸エステルの供給を行っている日本難燃剤協会のメンバー
ICL-IP JAPAN、味の素ファインテクノ、ケムチュラ・ジャパン、大八化学工業

利点
 ハロゲンフリー、火災からの安全、コストパフォーマンス、低毒性、低溶解性、低環境移動性。

論点
◆特に注目される理由
Carlssonらの最近の文献(2000)において、コンピューターハウジングからのTPPの放出が、アレルギー反応の原因の可能性であることが示唆されています。しかしながら、この研究者により観測されたTPPの濃度は、公的に設定されている職業曝露限度(OEL, MAK, TLV's)と比較して、36000倍低く、安全であると考えられます。更に、最近の皮膚感作性試験(2001)において、TPPは感作性を有しませんでした(0% 感作率)。本件に関する更なる情報は、日本難燃剤協会のホームページのポジションペーパーをご覧ください。
2003年10月の朝日新聞に、米国アカデミー紀要(PNAS)論文(2003)を引用し、一部の有機リン系化合物の神経毒性や環境汚染を引き起こす可能性が記載されました。この論文及び関連した報道記事は、例えば上記トリ-オルト-クレジルホスフェート(TOCP)といった特定の有機リン系化合物に関するものであり、当協会及び当協議会が現在供給するリン酸エステル類とは直接的な関係はないものと認識しております。本件に関する更なる情報は、日本難燃剤協会のホームページのポジションペーパーをご覧ください。

◆公的もしくは国際的な活動
US High Production Volume Challenge
ICCA, HPV program

供給会社/出典 他
日本難燃剤協会(FRCJ)
〒104-0031 東京都中央区日本橋2-16-3 18山京ビル3階
TEL : 03-3517-2232 FAX : 03-3517-2560
E-mail:info@frcj.jp
URL: http://www.frcj.jp

芳香族リン酸エステルの供給を行っている日本難燃剤協会のメンバー
ICL-IP JAPAN 株式会社
〒112-0004 東京都文京区後楽2-3-21 住友不動産飯田橋ビル5階
Tel:03-6801-8430 Fax:03-6801-6970
URL: http://www.icl-ipjapan.com/
味の素ファインテクノ(株)
〒210-0801 川崎市川崎区鈴木町1-2
TEL : 044-221-2372 FAX : 044-221-2387
URL:http://www.ajinomoto-fine-techno.co.jp/
ケムチュラ・ジャパン(株)
〒105-0003 港区西新橋1-14-2 新橋SYビル4階
TEL : 03-5510-7000 FAX : 03-5510-7004
URL:http://www.chemtura.com/chem/default.htm
大八化学工業(株)
〒541-0046 大阪市中央区平野町1丁目8番13号(平野町八千代ビル)
TEL:06-6201-1451   FAX : 06-6201-1458
URL:http://www.daihachi-chem.co.jp/
※注意
 この難燃剤解説は、欧州難燃剤協会(EFRA)作成のFlame Retardant Fact Sheetをベースに、現時点で入手できる知見を基に日本難燃剤協会が作成しています。この難燃剤データ表は、健康・環境・規制情報等を提供することを目的にしておりますが、製品安全データシート(MSDS)・法的な要求文書等ではなく、また記載データは製品規格を示すものではありません。

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